むかし、西湖のある村に、夜になると 鬼ヶ岳から鬼がおりてきて、わるさばかりするので、村人はたいそうこまっておりました。
「このまんまでは、村はつぶれてしまうぞ」「こまったもんじゃ」
村人はなんとか鬼をたいじしたいと思いましたが 力の強い鬼たちをやっつける方法が見つかりませんでした。
そんなある日、弘法大師(こうぼうだいし)さまが根場(ねんば)のほうから村に来るという知らせがはいりました。
「弘法大師さま、おねがいでございます。どうぞ鬼ヶ岳の鬼をたいじして下さいませ」村人はこぞって 弘法大師さまに鬼たいじをおねがいしました。
「それはえろうおこまりじゃな。」
しばらく辺りを見まわされた弘法大師さまは、西湖の向こうぎしにある大きな岩を見つけると、「よし、わたしにまかせなさい」と力強くいわれました。そして、「すみとすずりとふでをもってきなさい」といわれました。いわれたとおり持ってくると、弘法大師さまはすみをすり、太いふでにたっぷりすみをつけました。
そして、えーいっとばかり 岩にむかってふといふでをなげつけました。
すると、ふといふでは岩の上に絵を書きはじめたのです。
それは 鬼ヶ岳をにらみつけた鐘馗さまのすがたでした。
鬼たちは、とつぜん自分たちをにらみつける 鐘馗さまがあらわれたのをみてびっくり。
「くわばら くわばら!」と、山のおくへとにげていきました。
村人は大そうよろこび、お礼に弘法大師さまに粟飯をごちそうしました。弘法大師さまはおいしそうに食べておられましたが、足もとにあつまった赤腹(オイカワなどの湖にいる魚のこと)を見て「わたしだけ腹をみたすことができようか」といわれて、のこった粟飯をぷっと ふきかけました。赤腹はぱっとあつまって、そのその粟飯をたべました。
そのご、西湖の赤腹には粟粒のようなつぶつぶがあたまのところにできたそうです。
しかし、いまでは その赤腹を見たという人は おりません。