むかし むかし 三ツ峠の下暮地じょうやしきというところに大金もちがすんでいました。
その大金もちには一人だけ子どもがいました 大金もちはその子をたいそうかわいがり 大切に育てました。
ところで そのころ三ツ峠のきゃあがおね(貝が尾根)というところからきゃあ石 (貝石)がとれました。都のとのさまがわざわざ家来をよこし 買いもとめるほど きゃあ石はめずらしい石でした。このきゃあ石をとりしきっていたのが大金もちでした。やがて山にきゃあ石がなくなるころ・・・。どこからともなく とんできた蛾(ガ)がじょうやしきの庭にたくさんの山まゆを作ったのです。
山まゆからは糸がとれました。
おかげで美しい絹が織れましたから またまた大金もちの財産はふえていきました。
村の人たちは「きゃあ石も 美しい絹も立派じゃが、姫さまの美しさにゃあ かのうもじゃにゃあ。」「しろやしきにゃ この世の美しきもんが みんな集まるようじゃー。」とうわさしました・・・。
大金もちの姫さまは美しいばかりでなく 気持ちもやさしい娘になっていました。
ところが ある日 大金もちが病気にかかり ひとつの蔵(くら)にとじこもってしまいました。
それは おそろしい病気でした。
姫は 神仏に父親の病気をばおしてくれるよう 毎日いのってくらしました。
姫は いっしんに冬でも水ごりをしたり ただただ病のなおるよういのりました。
しかし 召使い達は 病人をきらって 一人さり二人さりして とうとう 姫は一人になってしまいました。
その姫の苦労を見て 大金もちはとうとう腹を切って死んでしまいました。
姫はなげき悲しみ 父親のぼだいをとむらうために しょこく苦行の旅にでました。
そして のちには尼さんとなって一生を仏様につかえてくらしたといいます。
今は・・・そのじょうやしきあとには 何ものこっていません。